はじめに
近年、化学関連の研究は専門分野の深化・発展と学際領域への進展が特に著しく、また独創的・先端的な研究に対する社会や産業界からの期待は大きい。そこで本会の学術研究活性化委員会〔委員長:井上晴夫(首都大学東京・教授)〕では、我が国の化学関連の学術研究のより一層の発展を図るには、世界を含む我が国化学関連各分野の最先端研究の現状と課題および将来動向を的確に把握しおくことが極めて重要であるとの認識により、平成11年より4年間にわたり、先端ウオッチング調査『21世紀の科学の潮流を探る』を23分野で行い、その成果を分野ごとの報告書にまとめるとともに、春季年会において成果発表会(イブニングセッション)を行い、他分野研究者を含め活発な討論を行った。
このたび委員会では、イノベーション創出のために特に重要と考えられる化学分野の融合領域の創成を目的として第二次先端ウオッチング調査『融合領域の創成』を行うことにし、現在作業を進めている。視点は「物質変換」「エネルギー変換」「環境調和」「先端計測」であり、すでに6分野の調査が終了し、第87春季年会でイブニングセッションを行った。第89春季年会においては、下記2分野のイブニングセッションを行う予定である。このような研究領域の成果は、広範な基盤科学技術を生み出すことになり、21世紀の科学の発展のみならず、社会的貢献につながるものと考えられ、その波及効果は極めて大きい。
※下記情報は化学と工業1月号掲載のものです。最終的な情報はプログラム(化学と工業3月号)をご覧下さい。
高速シーケンス法の出現により、有用生物活性天然物の設計図ともいうべき遺伝子情報が、容易に入手可能な時代に突入した。これは遺伝子発現を自在に制御できれば、どんな化合物でも合成できることを意味する。複雑な天然物の生合成に関与する基本酵素の反応機構が解明され、その応用がまさに展開されようとしている。本シンポジウムでは、ゲノム解析による膨大な数の構造未知天然物生合成遺伝子の発見、稀少天然物あるいはゲノム上に眠った天然物の生産の試み、代表的骨格合成酵素を用いたin
vitroおよびin vivoにおける天然物の短段階合成、酵素ならではの官能基導入反応、改変可能なリボザイムを用いたペプチド合成などについて、大学のみならず製薬会社等の研究者に現状とその将来性について話題提供して頂き、活発な議論をかわしたい。
プログラム:3月27日(金) 午後 ※演題は全て仮題
- ゲノム解析に基づく2次代謝のためのモデル系生物の構築 -応用に向けて-(北里大生命研)池田治生
- 微生物シトクロムP450モノオキシゲナーゼによる有用物質生産の現状と期待(メルシャン生物資源研)有澤 章
- 糸状菌メロテルペノイド骨格合成酵素の機能解析(東大院薬)久城哲夫・海老塚 豊
- テルペノイド-ポリケチド融合化合物の生合成とその鍵酵素を利用した有用物質生産(東大生物生産セ)葛山智久
- 酵素触媒機能の制御(慶大理工)宮本憲二
- 擬天然物特殊ペプチドのプログラム翻訳合成と応用(東大先端研)菅 裕明
- 植物ポリケタイド合成酵素の生合成工学(静岡県大薬)阿部郁朗
- 非リボソーム依存性ポリペプチド合成酵素を用いた抗腫瘍性物質ライブラリー構築の試み(北大院理)及川英秋
- 抗腫瘍性天然物プラジエノライドに基づく創薬研究(エーザイ創薬二研)小竹良彦
π電子に焦点を当てた物質科学「π電子科学」は、有機トランジスタや有機太陽電池などの有機エレクトロニクスや単分子スケールで動作する分子エレクトロニクスなど、未来技術の基盤である。その発展は直接人々の生活形態の変化にもつながり、社会に対する波及効果も大きい。合成化学、構造化学、応用物理などを包含したこの融合領域において、エポックメイキングな分子をいかに生み出すか。本セッションでは、新奇な分子構造を求める・分子間相互作用を極める・展開応用性を考える、の3点について最前線の研究を通して議論することで、この分野における新たな切り口や視点を共有し、直面している課題の抽出を図り、また、応用の方向性、可能性を探りたい。
プログラム:3月27日(金) 午後
- はじめに(名大院理)山口茂弘
- 精密有機合成で挑戦するπ共役の次元性制御(分子研)櫻井英博
- π共役系高分子の精密制御が拓く化学(神奈川大工)横澤 勉
- 機能性π電子系への典型元素アプローチ(名大院理)山口茂弘
- 巨大π共役骨格の創出から生み出される新物性(京大院理)大須賀篤弘
- π電子系の分子間相互作用の緻密制御による配列制御(物材機構ナノ有機セ)竹内正之
- ディスクリートπ電子系集積体の合成と物性(東工大資源研)吉沢道人
- 有機エレクトロニクス:アモルファスから高次構造制御によるデバイス特性の高性能化へ向けて(九大未来化セ)安達千波矢
- 単一π共役系分子の電気伝導特性(北大院理)木口 学
- π電子系を使って見る分子のかたち(東北大院理)磯部寛之
- π電子系の組織化から生まれる新たな展開(理研基幹研)福島孝典
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