学生への対応

1.基本的な考え方

 学生は大学等の重要な構成員であり、研究推進の担い手となっている。このような学生
が安衛法の適用を受ける教員と同等の実験環境で実験を行うことは当然である。また、大
学等が教育の場であることを考えると、大学等は学生に安全衛生の重要性についての理
解を深めさせるとともに、法を遵守した実験環境で実験を進める習慣を身につけさせる責務
がある。

 欧米諸国の大学では、安全衛生に配慮した実験環境で仕事を行うことが当然であるという
教育が行われている。これまでのところ我が国の大学等ではこのようなことが徹底している
とは言い難いのが現状であることは残念である。我が国の大学も国際化が進み、多くの留学
生を迎えるなか、安全衛生教育の徹底と安全な実験環境の提供は必要欠くべからざるもので
ある。かつてはアジアの優秀な学生が日本に留学したが、最近は日本を敬遠して欧米の大学
に進学するという声もよく耳にする。海外の優秀な学生を我が国に引きつけるためにも、安全
な実験環境を確保する必要がある。

 化学実験には危険を伴うものがある。ゼロ災害とすることがもっとも望ましい姿ではあるが、
リスク低減の努力をしてもゼロとすることができない実験があることは認めざるを得ない。
教員と学生が協力して考えられるリスクを認識し、その低減を図る努力を継続していくことが
重要である。

2.学生の位置付け

 最近はRAをはじめとし大学等から報酬を受けている学生が増えている。大学等から報酬
を得ているか否かにより対応が異なる。


 1) 大学等から報酬を得ている学生:報酬の対象となる業務の範囲内の仕事に対しては安衛
    法の労働者に含まれる。

 2) 大学等から報酬を得ていない学生:安衛法の労働者には含まれない。

3.健康管理

 学生の安全衛生対策は学校教育法や学校保健法に基づいて行われているが、そこでは、
安衛法上の有機溶剤や特定化学物質の使用や暴露に対する健康管理は想定されていない。
安衛法によるとそのような薬品を使用する業務従事者(労働者)は特殊健康診断を受けなけ
ればならない。大学等では自主規定または運用によりそのような学生に対し、特殊健康診断
を受けさせるよう対処することが望ましい。また、そのための予算措置も考慮しなければならない。

4.安全衛生教育

 学生に対しては教育の進度に応じて、安全衛生教育を行う必要がある。以下、学部・大学院
学生を対象とし、学年進行に応じた教育プログラムの一例を示す。

 1) 入学時ガイダンス:大学全体の環境・安全の概要(緊急時を含む)、健康自己管理
 2) 一年次化学実験開始時:安全の基本的な考え、安全操作、整理整頓、保護具、廃液処理
   緊急時対応など

 3) 二年次以降専門の化学実験開始時:2)の復習
 4) 卒業研究配属時:2)の復習、研究活動に関わる環境・安全知識(例、化学物質の安全取扱
   い、MSDSの理解、高圧ガスなどの取扱)、研究活動に関与する環境・安全法規、研究室お
   よび建物の緊急時対応

 5) 修士課程入学時:4)の復習と研究テーマに応じた環境・安全知識
 6) 博士課程入学時:5)に加え、指導者となるための知識(環境・安全のリスクアセスメントなど)
 7) 学生が報酬を受ける立場となったとき:安衛法の要件
 8) 研究テーマの変更時:変更に関わる環境・安全知識、関連する環境・安全法規
 9) 規定あるいは自主規定された研究活動開始時:規定あるいは自主規定の内容と関連する
   環境・安全知識ならびに法規

 卒業研究および修士研究開始前に安全衛生教育を実施し、且つ、確認効果テストにおいて
合格することが研究室での実験開始の条件であるという大学もある。 

 このような教育を行うに当たり、記録を残すことが必要である。不幸にして事故が起きた場合、
その原因を究明し、再発を防止するためにこのような記録は重要である。

また、化学実験では、リスクが基本的にゼロにはならないという観点から、学生に相応の保険に
加入させることが強く推奨される。

なお、学生を含めた化学物質等の自主管理のための「大学規則」の例として「東京工業大学に
おける化学物質等の管理及び化学物質等の取扱いによる健康障害の防止に関する規則
」を
掲げる。